私を泣かせてください ーLascia ch'io piangaー
七瀬先生は、30半ばくらいに見える髪をシニヨンにまとめた小柄な女性であった。
「初めまして。七瀬です。五藤先生からお話は伺っています」
七瀬先生と対峙して、何か話そうとしたら、まず涙が流れてきた。
先生は黙ってティッシュを差し出した。
「私は… 私は…」
それから私は涙と共に、今までの苦しみを途切れることなく吐き出していった。
気持が落ち込み、体も重くて疲れて毎日辛かった事。育児や家事が十分できなくて
夫や子供に申し訳なくて仕方がなかった事。死にたい気持ちで苦しくて
仕方がなくなることがあること。悲嘆、焦り、自責、絶望、苦悶…
ずっと抱えてきて、かつ外に出すことができない感情だった。
五藤先生は適切な相手かもしれないが、5~10分の時間で到底話しきれるものではない。
夫は家にいる時間は家事や育児のカバーで忙しく、心配をかけてはいけないという気持ちがあり、洗いざらい話すことはできなかった。
母は、性格上パニックになって騒ぎ立てるだけであろう。
七瀬先生の前で、何年も抱えて来た苦しみをやっと素直に吐露する事が出来たのであった。