ヘルパー図鑑10 (猪口さん)山上の垂訓ー我が言の葉を聞けー
今日は猪口(仮名)さんが来る日だ。どんな方だろう、と期待と
不安を持って待つ。
時間になり、猪口さんが来る。「初めまして。安井です」「猪口です」
猪口さんは、60代くらいの、中肉中背の少ししゃがれた声が特徴の
方だった。書き忘れたが、「ひまわり」は援助会員の年齢層が30~40代
であったのに比して「つばき」は少し高めの60代中心であった。
そこから普通なら簡単に台所の使い方の説明をして、援助に取り掛かる流れ
なのだが、機先を制するように猪口さんの自分語りが繰り広げられ
始めたのだ。
子供は女の子2人だが、立派な配偶者を見つけ幸せに暮らしている。
子供の手も離れて自由な時間が取れた。学びは幾つになっても大事と思い、
××と○○を学んでいる。最近●●の資格を取った。人間一生成長だ。
社会貢献をしたいと思い「つばき」に登録した 等々、さえぎる暇も与えず
話し続け、時計を見るともう15分経っていた。
「あの、ちょっと辛いので横にならせてもらいます」と言ってその場を逃れた。
実際ずっと立って聞いているのはきつかった。猪口さんはまだ話し足りなそう
であった。
次回彼女が来た時、また続きが始められたのだ。彼女の人生はちょっとやそっとでは
語り尽くせないボリュームがあるようだ。
毎回彼女の演説を聞いていたら疲れてしまうし、そもそも家事援助の為に来て
もらっているのだ。
猪口さんには挨拶だけして、さっと寝室に引き込むようにした。ちょっと不満げな
表情は意に介さないようにした。