ヘルパー図鑑20 (石川さん)傷つく皿と心
有償家事援助サービスは、援助中の事故(物の損傷、負傷等)に対しては賠償保険に
入っている。ヘルパーが援助中に何か物を壊したら、弁償される。
例えば「ひまわり」のヘルパーが誤って皿を割ってしまった時、新しい皿の購入代金
が支払われた。とはいえ、そのような事態は滅多に起こらなかった。
ところが石川(仮名)さんは物の扱いが荒いのか、大雑把なのか、かなりの頻度で
小さな事故を起こしていた。一つ一つは大した瑕疵ではない。お皿のふちが少し欠けた。菜箸の先を焼いてしまった。フライ返しの柄をちょっと溶かした。その程度の事だ。
そのたびごとに石川さんは「こうなっちゃいましたけど、まあいいですよねぇ」
と自ら不問に付していった。
本来判断するのはこちらだが、確かに買い替えるほどの事でもないし、うちに元々
高価な品物は存在しない。事務局に言うのも億劫に思え、いちいち取り上げる事はしなかった。だが、それが却って彼女を増長させてしまったのかもしれない。
毎月のように何かを小さく破損していくので、ちょっとずつ傷だらけになっている
台所用品やお皿を見て、私の気持ちも少しずつ傷ついていった。
石川さんは調理も少し雑と言うか投げやりだった、彼女が帰った後に、欠けたお皿に
ぞんざいな料理が盛られているのを見ると、少し悲しくなった。