ヘルパー図鑑23(山口さん)冷蔵庫の中にあるのは
山口(仮名)さんが援助に入り始めてしばらく経って、事務局の猿江さん
から連絡が入った。
電話で、言いづらそうに「山口が安井さんの家には冷蔵庫に何にも入っていないと言うんですが」と口にした。
だから調理ができないと。私はびっくり仰天した。ヘルパーさんが来るにあたって、
調理がやすい様に、出来るだけ多種類の物をたくさん冷蔵庫に用意するよう心掛けてきた。
勿論、こんにゃくとかきくらげが準備されていないことはあるけれど、
一般的な食材、勿論調味料も一通りは揃っている。
「冷蔵庫、いつも満杯にしてあるのですが」
私は面喰って冷蔵庫の中に入っている物を具体的に挙げた。肉なら鶏、豚、牛。ひき肉も。魚なら丸ごと、切り身、干物。野菜も人参、じゃが芋、玉ねぎ、きゅうり、トマトなど。卵や豆腐、乾物もある。
今までたくさんのヘルパーさんに来ていただいたが、食材がないという声は
貰ったことはなかった。
冷蔵庫の中身を説明して、食材の準備としては十分だと思うと言うと猿江さんは
「そうですね」ととまどった。本当に冷蔵庫が空っぽなのだと思っていたようだ。
うちの冷蔵庫は40Lで、それがいっぱいになるほど食材はある。意識的に備えているのに、これで何にもないと言われてしまったら一体何を用意したらいいのだろう。
私は自分の困惑を率直に伝えた。
「分かりました。山口に伝えます」と猿江さんは電話を切った。
それから猿江さんからも山口さんからも食材の用意について注文を受けることはなかった。しかし肉や魚や野菜であふれている冷蔵庫が、どうして「何にもない冷蔵庫」に
なるのか。山口さんの目にはどう映っていたのか。彼女の言う「空っぽでない冷蔵庫」、彼女を満足させる冷蔵庫とはどんな物なのか知りたい気がする。