そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

患者図鑑9 放送禁止用語

やくざ

これは正確に書けば、罵詈雑言、放送禁止用語差別用語満載になる出来事である。
私が待合室に座っていると、二列ほど前の席に男性がすっと座った。
初めは気にも留めていなかったのだが男性はぎろっと周りを見回すと、
大声で口汚く罵り、悪態をつき始めた。大きな身振り手振りまでついている。ここには具体的な内容を書くのを憚られるほどだ。
診察室内で大声を出す人は見かけた事があるけれど、
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待合室で怒鳴り散らす人は初めてだった。
その人はまだ若く、大柄で強面だった。サングラスをかけているので視線が分からないのがまた怖い。
「○○でよう!まったく!✕✕ってんだよ!え?ふざけるな馬鹿野郎!」本当はもっとひどい内容を口にしている。
怖くて私はさりげなく席を移ったが、彼と一つしか席を隔てていない場所に平然と座っている女性には感心した。
他の患者はびっくりして、彼をちらちら見つつも目線を合わせないようにしている。メタルファッションで、
シルバーのネックレスやピアスもつけ、靴も選んだ高そうなものを履いている。
精神科には身なりに気を回す余力もないのか、格好に気を遣わない患者は良く見られる。
私もアイロンもかけない、くしゃくしゃの服で顔も洗わずに行った事がある。
しかしこの人のようにキメキメのファッションで身を包む余裕はあり、ちゃんと予約をしてその時間に来る判断も
出来るのにこの恐ろしいまでの暴言連発は何なのか。
身を縮めながら聞いていると、意外とボキャブラリーは限られていて、耳を覆いたくなるような内容ではあったが
同じ事を何度も何度も繰り返しているだけだった。また怒りの対象はここにいる患者でなかった。同意は求めていたけれど。
また、座って怒鳴っているだけで誰かに近づいて手を出すような
気配はなかったので、ひたすら嵐の通り過ぎるのを待っていた。
それにしてもこの病院は警備員が随時巡回しているのに、何も言わないのか。これは「症状」で、他の患者に危害を加えている
訳ではないので、許容範囲なのだろうか。
「だっからよう、俺は昔っからおかしいんだよ。分かる!?」病識はある…?
今後彼と受診のサイクルが合いませんようにと祈っていると「××さん」と呼ばれ、彼が診察室に入って行った。
そっと診察室をのぞき込むと、細身の楚々とした女性医師だった。彼に罵倒されないだろうか、襲われないだろうか。
前のように診察室から怒りの声が聞こえてくるのかと思いきや、とても静かなのだった。
そして診察室から彼は医師に向かって「すいませんねぇ、お世話になりましたホント」へこへこお辞儀をしながら
出て来た。荒れ狂う彼を手なずける女性医師は魔法使いか猛獣遣いか。
気になったのは、待合室でも診察室でも彼は一人だったのに、診察室を出てくるときは背広姿のスタッフカードを首にかけた
男性に伴われてきたことだ。
ほどなく私の番になり、五藤医師の診察室に入った。自分の病状に触れる前に、騒ぎまくる人がいてとても怖かった事、患者が他患者に危害を加える可能性があるのかをまず聞いた。
「診察室まで声が聞こえて来たけど、そういう事だったんだ。僕の経験では待合室で患者が他患者に暴力をふるったっていうケースはないね」
背広姿の男性が付き添っていった件について聞くと「おそらく警備の人」
五藤医師は続けた。「多分ね、躁状態なんだと思うよ」そうか、躁なら洋服選びも楽しいかもしれない。
「薬で落ち着くと思うけど」彼の為にも、他の患者の為にもそう願いたい。