患者図鑑10 プレゼン資料作成
今回書く男性患者は、見た目もごく普通、待合室で騒ぐ訳でもないので目立たない存在だった。
いつもスーツ姿だったが会社帰りや会社の合間に来るのだろうか、背広を着た人は珍しくもないので特に気にも留めていなかった。
「久米(仮名)さんどうぞ」と診察室に呼ばれていたので名前だけ分かった。主治医は
栃木医師だったと思う。
久米さんはいつもビジネスバッグと別に、たくさんの資料を手にしていた。待っている間ずっとそれを読み込んでいる。初めはお仕事大変なんだな、待っている時間もチェックなのかなと思っていた。
しかし、久米さんは診察室に呼ばれると、ビジネスバッグを待合室の椅子に置いて
(これも不用心と思うが)大量の資料のみ持ち込んで長時間診察室にいることが
分かって来た。
たまたま席が空いておらず久米さんの隣になったことがある。静かに資料をめくっているのをちらっと見ると(野次馬根性ですお恥ずかしい)自分の病状を綴っているようなのだ、付箋が沢山貼ってあり、マーカーも引いてある。
飽くまで想像なのだが、久米さんは診察に当たり医師に伝える内容を資料作成して説明の材料にしている。だから診療時間も長いのではないだろうか。
久米さんの持っている資料はA4 20~30枚に程に見え、作成するのもプレゼンするのも、聞く医師もそれなりに大変だろうと推察した。
私は受診の際は大抵くたくたボロボロの状態で、病院に辿り着くのがやっとの事もしばしば
だった。だから久米さんのエネルギーには感嘆した。
いつもプレゼンの資料を万端に用意する、仕事のできる人なのかもしれない。
反面、久米さんはとても苦しくて何枚もの資料に書くくらいに辛く悩みがあるの
だろう。あの資料の分厚さの分だけ、久米さんの苦しみがあるのかもしれない。