そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

竹藪の家

私の母が子供の頃住んでいた家の近くに「キ○○イの家」(○の中はご想像下さい)と呼ばれた家があったそうだ。

整然とした住宅地の中の竹藪の生い茂った一角があり、その中に建った家がそう呼ばれていた。

竹藪

母が祖母に聞いた話によると、その家には母親と息子二人が住んでいる。息子は

両方ともおかしいから、決してその家には近づくなと言い置かれたと言う。

祖母は一度だけわめきながら外を歩く息子を見た事があるそうだ。20前後に見えたらしい。

しかし基本的には三人とも家に籠り、近所づきあいも全くない。

 

祖母に禁じられていたものの、ある時は母は「探検」と称して近所の子供と連れ立って竹藪の中に入って行った。竹藪は鬱蒼としており、道から家は見えなかったが、入っていくとボロボロの家屋が現れた。玄関のドアは開きっぱなし。中に入っていくと割れたガラスやら、ゴミやらで足の踏み場もない。雨が吹き込んだのか泥と水で濡れている。とても人が住めるような状態ではなかったそうだ。ふと外を見ると、中年の女性が庭に立っていて子供たちをじっと見つめていた。母親だ!悪い事をしている気が咎め、脱兎のごとく逃げ出した。

祖母の言いつけを破って人の家に入った後ろめたさもあり、その事は誰にも言わなかったという。祖母からも何も言われなかったというのは、竹藪の家の母親も苦情を申し入れては来なかったのだろう。

竹藪の家の住人は、特に外に出て近所の人に迷惑をかけることもなかったせいか

皆遠巻きに見ているだけで、関りを絶っていた。

母の家族はその後転居して、大人になってからかつて住んでいた辺りに行ってみたら

竹藪は綺麗に失くなっておりもうそれがどこにあったかすら分からなくなっていたという。

人も住めないような環境で、外部から遮断されていた三人がどのような生活を

送っていたのかは想像もつかない。収入はどうしていたのか、買い物は。母親がいなくなったら兄弟はどうなるのか。

近所に危害を及ぼさなくても、看過できる状態ではない。今なら万全とは言わないまでも、福祉や医療も整っているので、兄弟を受診させるなり、住居の整備をするなり援助の手を差し伸べる事はできたのだろう。ただ当時は精神疾患への理解も乏しく敬遠するのが最良と、誰もそれを疑問に思っていなかったようだ。

竹藪の家に籠っていた三人の事を思うと陰鬱な気分になる。現代ならもう少し解決・改善策を探る事が出来たのだろう。