患者図鑑31 持ち歩きセーフティボックス
病室の床頭台には小さいセーフティーボックスがついていた。前の記事でも書いてきたがB病院は解放病棟で、主治医の許可さえあれば自由に外出・外泊出来たので、お金も必要なので手元においておく必要がある。各自セーフティーボックスで自己管理する事になっていた。
ただ、殆ど病院から出ない患者はお金を使う機会もないので、そもそも財布自体を所持していない人もいた。
榎さんも外出をする姿を見た事がないので、お金の必要はないと思うのだが、貴重品一切をビニール袋に入れて紐をつけ、首から下げていた。財布、キャッシュカード、保険証、印鑑、クレジットカード。榎さんの全財産と思しきものが詰め込まれていた。そしてそれをいつも首から下げて行動するのだ。
落としたり、失くしたり、こんな事はないと思うけれど目の前に貴重品がぶら下がっていれば良からぬ考えを起こす人が現れるかもしれない。
榎さんと話していて、いつも胸の辺りでぶらぶらしている貴重品袋は私でも気になり心配になった。紐つきのビニール袋は自家製なので、あまり強度もないようで見ていて気が気でない。
看護師さんも何度かセーフティーボックスを使った方が良いですよ、入浴の際更衣室に忘れたりすると大変ですよ(何しろ全財産である)とアドバイスしていたが、榎さんは聞く耳を持たない。身に着けているのが、一番安心できるのだろう。
寧ろ榎さんの行動範囲が院内に限られているのはいいことかもしれない。もし貴重品袋を首から下げて、外を出歩いたらどんなハプニングに見舞われるか分からないから。
(文中は全て仮名・仮称です)