患者図鑑32 洗濯事情その1
各フロアに一台ずつ(男子棟に一台、女子棟に一台)洗濯機があり、各自洗濯が出来るようになっていた。
中には家族に洗濯物を持ち帰って貰っている患者もいたが、自ら行っている人の方が多かった。
洗濯機を回せるのは、起床時間から消灯時間の間。洗濯機のところにホワイトボードがあり、使いたい人は名前を書いていく。一番に名前を書いた人から洗濯を始め、だいたい40分くらいでコースが終わるので、頃合いを見て次の人が行く形になっていた。
これについても小さな先着争いがあった。乾燥機はないので、皆屋上に干すのだが
遅い時間に洗濯してはその日のうちには乾かない。みな朝早い時間に洗濯するよう
しのぎを削って(とはちょっと大げさだが)いた。
洗い終わったら勿論洗濯槽より洗ったものを全部出すのだが、亀井さんに限っては
「何故か」ショーツを一枚忘れるのだ。他にも洗濯物はあり、それらは全部取り出すのにどういう訳か毎回ショーツが一枚洗濯機の底にへばりついたままだ。
もうそうなると、名物や笑い話になり、亀井さんの次に選択した人が「お届け物~」
とおどけながら本人やナースステーションに持って行くのが高齢になっていた。
亀井さんは当たり前のように受け取る。何故お約束のように忘れる(いや、本当に忘れているのか?)は分からないままだ。
洗ったあとも陣取り合戦ががある。屋上に物干しざおがあり、出入り口に近い方は男性、反対側は女性と何となく分かれていた。そばのビルの影の具合、日当たりの具合で乾きの良い場所がある。いい場所に干そうとちょっとしたつばぜり合いがあり(これもちょっと大げさな表現かも)、少し人の洗濯物を動かした、自分の物の前に干した
と少しばかりトラブルになる事もあった。
(文中は全て仮名・仮称です)