そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

患者図鑑63 友達の作り方5ーよき友ー

ペットボトル



吉田兼好徒然草」に、

よき友三つあり。一つには、物くるる友。二つには、医者。三つには、智慧ある友。

とある。医師はプロが何人もいる場所なので十分間に合っている。智慧… あんまりないかな。となると、「物くるる友」になるしかない。

前にも書いたが

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内科的問題を抱えた入院ではないので、間食に関する制限は緩かった。私は外出の時、スーパーやコンビニでちょっとしたお菓子を買ってきて、食堂や談話室で皆が談笑している時に分けるようにした。

「ちょっと、甘い物控えてるのよ」「歯が悪いから、お煎餅は硬くて…」と断られた事もあるが、それでも人から物を貰う事自体はまんざらでもないようだった。(吉田兼好の言う通り!)

「物くるる友」で思い出した人がいる。増井さんは、入院歴が長くヌシ部屋の住人

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になってもおかしくないくらい入院歴が長い人だった。そして年代や誰も見舞いに来ない、外出や作業療法に出ない事も主たちと一緒だった。しかし増井さんは主たちのようにつるむ事無く、食事や入浴以外の時間は部屋で過ごしていた。増井さんのベッドは

窓側なので、隣と仕切ったカーテンの向こうで何をしているのかは同室の人も分からないと言っていた。

物静かな人で、誰とも殆ど口を聞かない。私も会釈する程度だった。

しかしある時、ペットボトルの水の買い置きが多すぎて床頭台に収まらなくなった。

誰かに分けようと食堂に向かったが、あいにく誰もいない。

と、トイレから帰って来たと思しき増井さんと廊下で鉢合わせた。水なら、

有っても邪魔にはならないだろう。

「増井さん、宜しければこれどうぞ」とペットボトルを差し出した。

いつも伏し目がちの増井さんが私を見つめて、ぱぁっっと花開くような笑顔を見せた。

私がたじろぐほどだった。たったペットボトル一本で…

「いいの?有難うございます」

増田さんは深々と頭を下げた。

別の入院患者から、増田さんは若い頃は

「大手企業の本社の受付だったんですって」

と聞いた。いつも地味な、こげ茶色のパジャマを着た(これ以外を着ている姿は見た事がない)彼女からは華やかな受付嬢時代は想像が出来なかった。

30代で統合失調症を発症し、長い間入院生活を送っているのだと言う。

食堂や談話室でのおしゃべりに加わらず、部屋にこもっているのは何故だかは分からない。ただ、ペットボトル一本であれだけ喜んでもらえたのは彼女が「物くるる友」(増田さんと「友」とは言えないが…)が長年おらず、また「物」に伴うコミュニケーションもずっと欠如していた表れなのだと思う。

(文中は全て仮名・仮称です)