そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

患者図鑑69 ー涙の工作ー

動物

床頭台にも引きテーブルがついているが、本当に小さいので、本を拡げたり

書き物をする際は食堂や談話室のテーブルを使う人が多かった。

ある時、つい一週間ほど前に入院して来た力竹さんが食堂の端で幾つもテーブルを

使って何かしている。

力竹さんはまだ20代と若い患者だった。

「何なさってるんですか」

と声をかけると

「子供へプレゼントしようと思って…」

聞くと、力竹さんには年子の幼稚園児がいるそうだ。うつになって入院の運びとなり、

今は実家に預けているという。実家には夫が泊まり込み、両親と共に育児をしている。

「実家のそばに姉も住んでいるので、姉も良く手伝いに来てくれているんです」

世話の方の手当は出来ているが、母親不在ではさみしいだろうと、また彼女自身の心の穴を埋めるため子供が喜ぶ工作をプレゼントするのだという。

その工作は折り紙や色画用紙、シールなどあしらって、とても可愛らしくかつ手の込んだものだった。

「うちの子、二人とも動物園好きなんです。だからライオンとか虎とか…」

「すごいですね。きっとお子さん、喜びますよ。お見舞いに来たりはしないんですか?」

「先生は子供が来てもいいって言うんですが… そうすると、面会が終わって帰る時私も子供もすごく辛いと思うので。だから、せめて工作や手紙を届けようと」

そこまで言うと彼女は涙で声を詰まらせた。

その当時、私の子供は10代後半で私が不在でも生活も回るし、酷く寂しがるという事もなかった。

しかし、自分の子が幼稚園児相当の年齢だったことを思い出すと、力竹さんの苦悩が

我が事のように思え、彼女の痛みや苦しみが伝わって来た。

子持ちのお母さん患者は何人もいたが、中にはネグレクト状態で「子供は旦那(もしくは実家)が何とかしてるでしょ」と歯牙にもかけていない風の人もいた。

そんな中、力竹さんは子供が大事で責任感もある真面目な人なのだろう。

時々実家のお母さんやお姉さんと思しき人が見舞いに来て、長時間話し込んでいた。

多分子供たちの様子を伝えていたのだと思う。

(文中は全て仮名・仮称です)