患者図鑑85 駆逐!カルジャダン
渋川さんにとって不倶戴天の敵は「カルジャダン」だ。渋川さんはいつも
いつもいまいましげにカルジャダンへの憎しみと嫌悪を語る。
「カルジャダンがもう頭に来るの。いい加減にして欲しい。もうどこかに行って!」
「いいかげん何とかして欲しいわよね。もう大っ嫌いなの」
さんざん悪口を口にするのだが、肝心の対象ーカルジャダンーが何なのか、渋川さん以外に誰も知らない。いったい人間なのか。日本人なのか外人なのか。それとも虫やイデオロギーみたいなものなのか。
勿論、「カルジャダンって何ですか」と渋川さんに聞いた人は複数いる。しかし明確な答えが返って来た試しはなく、「カルジャダン、本当に駄目なのよ!」と言った返答しか得られない。
検索しても「もしかして カムジャタン」と韓国料理がヒットするだけだ。
そもそもカルジャダンは実在するのだろうか?渋川さんの頭の中にだけ存在する、
いわば想像上の産物ではないのか?そうでなければたとえ、カルジャダンが病院内にいないにしても写真を見せるとか、絵をかいて見せるなどできるはずだ。
それとも、渋川さんに取って不快なもの、不要なものを総称してカルジャダンと呼んでいるのか。それなら、私にもカルジャダンはある。
何となく異国情緒がある、謎の言葉「カルジャダン」。結局退院するまで解けなかった謎がいくつかあるけれど、
渋川さんのケースもその一つ。渋川さんは私より先にカルジャダンを抱えて退院して行った。
(文中は全て仮名・仮称です)