患者図鑑103 アンバランス
前回に続きファッションの話題。ゆるゆる普段着の人が多い中で、ファッショナブルな田村さんや陸岡さんが目立っていたのは言うまでもないが、流川さんも目を引いていた。
流川さんもすらっとして手足が長いスタイルのいい人なのだが、いかんぜん来ている物が常に「ちぐはぐ」なのだった。
異様といってもいいほど毛玉だらけのセーターなのに、下は凝った知作りのギャザースカート。クリーニング店から持ってきたばかりのようにひだはきっちりと折り目がついている。靴下は薄汚れてゴムがゆるくて足首まで落ちているのに、スリッパはブランドのロゴがついた新品だ。
別の日は、上はドレープの素敵なブラウスで、下はシミが幾つもついたくたびれた
(ビンテージ感とはまた違う)デニム。長さが合っていないので、ずるずる裾を引きずっている。
一部分だけ見るととても素敵なのに、もう一方の部分を見ると非常に残念。それが毎回だった。
ある時、談話室でテレビを見ていたら流川さんが出かけて行く。花柄の軽やかなワンピース姿だ。ワンピースだったらさすが不揃いにならないな、と思いつつ会釈を交わす。
と、流川さんがエレベーターのボタンを押しながらダウンを羽織った。ダウンからは無数に羽根が飛び出ている。まるで小さな水玉模様が散っているようだ。
ワンピースを着ても、流川さんのアンバランスは変わらない。流川さんの服のアンバランスさー それは彼女の内面の不均衡から来ているのだろうか、と後姿を見送りながら思った。
(文中は全て仮名・仮称です)