そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

患者図鑑110 鷲塚さんのイタリアンデビュー5

ティラミス

「さ、食べよ、食べよ!」運ばれてきた食事に早速手を付けたのは論田さんだった。

「おいしー-い」と目をつぶる。論田さんに促され、皆も次々料理を自分の皿にとりわけ始めた。とまどっている鷲塚さんの皿にも、いろんな料理を少しずつ盛ってあげる。

今まで見た事も、口にした事もない料理に鷲塚さんは明らかに当惑していた。

妥当な例えか分からないが、ふと子供に離乳食を与えていた頃を思い出した。

初めての食材を与える時は、親も緊張してしながら子供の口に運ぶ。子供も初体験の味に何か変な顔をするが、それでも飲み込んでくれるとこちらも安心して二口目を、という事を繰り返していた。果たして、初体験の味を鷲塚さんさんは受け付けてくれるだろうか。

それでも周りがおいしいおいしいと平らげていくのを見て、鷲塚さんも料理に手を伸ばした。「どう?」「おいしいです」鷲塚さんはにっこりと笑った。みな歓声をあげて安心した。初めの一口目の関門を過ぎたら、あとは順調に食べ進んでいった。時々この食材は何ですか、この料理は何ですかと質問が来たが、それでもおいしそうに嬉しそうに残さず食べていた。

最後のデザートになって、もういちどメニューを見せてもらう。

これは難問で、私たちも分からないデザートがたくさんあった。

カンノーリ?カッサータ?ビニエ??

デザート部門が充実しているのは誠に有難い事なのだが。もちろん、メニューには簡単な説明が書かれているのだけれど。ここでちょっと鷲塚さんが最初にとまどった気持ちが理解出来たりする。

鷲塚さんは当然私達以上に当惑している。食べた事がないデザートを彼女に薦める事も出来ないので、鉄板のティラミスを薦めてみた。ティラミスはご存知のようにマスカルポーネチーズがメインの材料だ。チーズが材料、と聞いて鷲塚さんは6Pチーズ(これは病院食で出る)のようなものを想像したようで、それがデザートになるなんて… と納得がいかないようだった。

しかし、運ばれてきたティラミスをおそるおそる口にして「おいしい!」と笑顔になった。

デザートとコーヒーで締め、その日の夕食会はお開きになった。

(文中は全て仮名・仮称です)