患者図鑑57 夜のお菓子
入院中、三食はきちんと出る。デザートは時々果物がつくくらい。味気ない食事に、みなちょっとした自分用のお菓子・おやつを用意して、食堂や談話室でおしゃべり
する際などに食べていた。スナック菓子が多かったが、冷蔵庫も使えるのでヨーグルト、アイスなど常備している人もいた。
中でも二上さんはおやつ好きで、大きなレジ袋を何袋も持っていて、その中にポテトチップやせんべいといったスナック菓子を詰め込んでいた。食堂でおしゃべりする時はいつもお菓子袋持参だった。
二上さんと同室の人によると、「毎晩夜中に二上さん、レジ袋がさがさやってお菓子を
取り出して食べるのよ。もうそのレジ袋の音と、お菓子食べる音がうるさくって。
毎日だし、一晩に何回も食べたりするからね」
二上さんの気持ちは分からないでもない。夕食は18:00~で、朝食は8:00~。12時間以上空くので、どうしてもお腹が空いてしまう。特にあまり魅力的でない夕飯で箸が進まなかった場合、夜中に急激に空腹を感じる事があった。
夕飯があまり魅力的でなくて、食が進まなかったある夜、消灯後におなかが空いてきた。
二上さんのお気に入りのお菓子の一つが黒豆入りの煎餅で、個包装になっているので
昼間に分けて貰った。後で食べよう、と思って床頭台の上に置いておいた。その煎餅の事を思い出して、そっと袋を開けて口に入れた。思いがけずバリボリという大きい音がする。
タイミング悪く、看護師の陸奥さんが見回りに入って来た。陸奥さんは「安井さー-ん、ボリって音したよ」と笑っている。夜間に物を食べるのは、別に規則違反ではないので、怒られはしなかったが… 夜間森閑とした中の隠れ食いはは思いがけず目立つのであった。
(文中は全て仮名・仮称です)