患者図鑑80 皮膚むしり症
粕谷さんはセミロングのボブで、前髪をかなり厚く作っていた。なので額は全く見えない。が、粕谷さんと話していると、しきりに額に手をやっている。
かゆいのかしら、何かできものでもあるのかしらと思っていたが、あまりに頻繁でかつ
毎日である。
ある日、少人数で話していた時粕谷さんは「額ばっかり触ってるから気になるでしょ。
実はね」と前髪を上げた。
額一面ににきびがあり、また潰した跡がある。にきび痕もある。粕谷さんが手を額に伸ばしていたのは、常ににきびをいじり潰していたのだ。額の状態を隠すためかかなり厚くファンデーションが塗られていたがファンデーションの上からにきびをいじるので、ムラになってしまっていた。
ファンデーションを重ね塗りし、髪で隠してしきりにいじっている現状はにきびに取っては良くない。
彼女もそれは分かっている様だった。「先生に相談したの。にきびを直したいのに、肌を綺麗にしたいのに、どうしてもにきびを潰したくてしょうがないって。潰すのが良くないっていうのは分かってるのよ。でも潰すと、罪悪感もあるけど半面気持ちが良くて… やめられない」
そんな症状があるのだろうか。検索してみると「皮膚むしり症」がヒットした。
上記サイトによると、皮膚むしり症は強迫症の一種で、強迫的に自分の皮膚をひっかいたりむしったりすると言う。
粕谷さんは、医師から薬処方と、にきびを潰したくなったら一旦腕組みをして間を置くアドバイスを貰ったが、どうもうまく行かないと言う。2,3回衝動をやり過ごしても、4回目にはどうしても手を伸ばす誘惑に勝てない、と嘆いた。
額が常に酷く荒れているので、美容院に行けないのが悩みだと言う。結果的には前髪を下すとは言え、カットの際にはどうしても美容師に額を晒すことになる、ある時、美容師がはっと息を飲んだのが分かったとそうだ。それから美容院に行くのが気が重くて、
と粕谷さんはため息をついた。
(文中は全て仮名・仮称です)