前回の続き。
添畑さんのひし形好きは、服やアクセサリー以外でも朝昼晩と嫌でも認識させられた。
病院食は、ご飯、みそ汁、副菜。主菜がトレーにセットされた状態で台車で運ばれてくる。トレーに名札も乗っていて、自分の名が書かれたものを自席に持ってきて食事を取る。そして食べ終わったら、トレーを台車に返す。
漆畑さんの場合、食べ始める前に一手間入るのだ。
だいたい、食事はこんな感じでトレーに乗せられてくるが
漆畑さんは、お皿を並べ替え、「ひし形」を作ってから食べ始める。
食べ終わったら、さすがに普通にトレーに戻して台車へ運ぶ。
毎食毎食、漆畑さんのひし形並び替えが行われるのでいやでも彼女のこだわりに
感じ入ることになる。
また、作業療法の時も彼女の執着はいかんなく発揮される。ビーズ細工のプログラムの時がある。とは言え、高度な作品を仕上げるのが目的ではないのでビーズを編んだり複雑な組み合わせをするなど高等テクニックを要するものを作る必要はない。
単純にワイヤーや紐にビーズを通して行って、ネックレス、ブレスレットにする程度だ。ビーズは幾種類もストックがあって、自分で好きな物を選べるのだけれど、漆畑さんは期待を裏切らずひし形、もしくはひし形に近いビーズのみ選んでいた。ひし形が足りなくて、ブレスレットにするには短すぎる時も完成させる為に他の形、例えば丸や多面体を加える事は決してしなかった。先生にひし形を補充して下さい、と依頼して材料が揃うまで、それは未完のままであった。
ビーズが届いて完成したブレスレットを机に置いて、その丸い形を指できゅっと引っ張ってひし形にした漆畑さんは満足げだった。