患者図鑑70 ーネグレクトとパーフェクトベビーー
と思えば、前項でちらっと触れたようにネグレクト状態、子供に全く
関心が無いように見える人もいた。
冷水さんは、子供がまだ幼稚園前。見てくれる人もいないので乳児院に預けて
いるそうだ。でも、時間があっても面会には行かない。
「ちゃんと乳児院で面倒見てくれてるでしょ、たまには行くし」とさばさばしたものだ。
同じ乳児院に預けられている子の事情は様々だが、ある子は両親ともに精神疾患を患っていると言う。六所さんというそうだが、そもそも、お互いが精神病院入院中に出会い、結婚・出産に至ったとの事。双方が入退院を繰り返しているので面会どころか手元で育てる見通しもつかないそうだ。
冷水さんの夫は会社員だ。冷水さんの見舞いもすれば、子供の面会もし、週末などは乳児院から一時帰宅させているという。
「うちは六所さんとは違って、私さえ退院すれば自宅に引き取れるし。旦那が面会行ってるし」
ずっとマシだとばかりと涼しい顔だった。
「パーフェクトベビー願望」という言葉がある。
パーフェクトベビー願望(パーフェクトベビーがんぼう)またはパーフェクトチャイルド願望(パーフェクトチャイルドがんぼう)とは、身体に障害などがない五体満足で、かつ勉強や運動も優れている、完全な(Perfect)子ども(baby・child)が欲しい、という親の願望である。 (Wikipediaより)
和田さんは、子供がパーフェクトベビーだと信じて疑わなかった。しかし、まず
少し小柄に生まれた。そこからして和田さんの不満が始まった。
スイミングスクールでの進級が近所の遊び友達より遅い。有名幼稚園の入園試験に落ちた。小学校受験にも失敗した事で、和田さんはどこか線が切れてしまった。
私がこんなに頑張ってるのに、何でこの子はパーフェクトじゃないの?ことごとく
私の期待を裏切り、プライドをずたずたにするの?
退院すると、彼女の思い通りでない子供と向き合わなくてはならない。入院していると
子供の事を忘れられるからいいわ、と言っていた。
青野さんは子供が発達障害だ。帰宅して子供の顔を見るとイライラすると言う。
主治医や家族から促され、嫌々帰宅して子供に会うといつも頭から湯気を立てて
帰ってくる。
子供が言う事を聞かない、行儀が悪い、勉強をしない…
「子供に会うたびストレスがたまって具合が悪くなる!」と青野さんは言い切った。
(文中は全て仮名・仮称です)