患者図鑑102 カーテンレール・クローゼット
入院中の患者は、日中はゆったりしたルームウェアやジャージが多い事は以前書いた。その中で、高級ブランドをとっかえひっかえ身にまとう田村さんが場違いに見えた事も。
もう一人ファッションリーダー(?)陸岡さんがいた。しかし、陸岡さんは田村さんのように、病院で着るにはちょっと頓珍漢な高級ブランドのよそ行き服ではなく、ファストファッションの普段着であった。
陸岡さんは背が高くスタイルが良い人だった。ファストファッションで買っていると言っていたが、センスが良いのもあいまって何を着ても良く似合った。
私は田村さんの病院とミスマッチなファッションよりは好感を持ってみていた。
私は陸岡さんとは病室が違う。前にも書いたが、違う病室には入ってはいけない規則になっていた。ある時、陸岡さんの入ってる病室の前を通ると、看護師が笑いながら何か言っている。
「陸岡さん、さすがにこれは困るわ。ここに吊るしちゃだめよ」
相部屋に入院やお見舞いに行った事のある方はお分かりだと思うが、ベッドはカーテンでぐるりと覆われるようになっている。そのカーテンレールに、陸岡さんが服を何着も吊るしているのだ。確かに自分のスペースは大して広くないし、服をつるすには枕側の
壁にハンガーをかける突起が数個あるくらいだ。陸岡さんの服の多さでは置く場所に困る。
「これじゃ、カーテン閉められないでしょ」
「えー、私閉めないままでもいいですけれど」
カーテンはいつでも開け閉め出来る状態でないと、と言われ取り敢えず服を取り込んでいた。
(文中は全て仮名・仮称です)