患者図鑑68 病院今昔
B病院の創立が何年、と書いてしまうと特定されてしまいそうなので明記しないが
そこそこ歴史のある病院である。
ある時、新しく入院して来た患者来野さんが「私ずっと前にここ(B病院)に入院していた事があるのよ」と言う。
「中は随分変わったけど、外観は余り変わって無いわね」
と感慨深げだ。
「私が最初入院していた時、病室は畳敷きだったのよ」
驚きだ。
「という事は、ベッドじゃなくて布団ですか?」
「そう、布団」
今のようにカーテンで隣を隔てる事もなく布団が並べて敷いてあったそうだ。
「それから随分経ってまたB病院に入院したけれど、その時はベッドになっていたわ。
でも、カーテンなんて無くて。丸見えよ(笑)」
「えー- それじゃプライバシーが無いじゃないですか。着替えは?」
「その時はプライバシーとか考えなかったわね。そう言う物だと思ってたから。
着替えは同性同士だし、堂々とやってたわ」
前病室、畳に布団だったんですって、と看護師さんに言うとさすがにその頃から勤務している人はいないので驚いていた。
そう言えば、図書館で古い雑誌(昭和50年代発行)を読んでいたら、精神科医の執筆した記事として
「精神病者は三界に宿無しと言われます。近隣・職場・家族からすら爪弾きされます」それを何とかしたいという抱負、その一環として
「これまで精神病患者は入院しなければならないと考えられていました。当院(執筆者の勤務する病院)は、通院して治すというこれまでの常識では考えられない画期的施療を行います」
と書かれていた。
昭和50年代と言えば、まだ50年前ほどの話。それほど大昔でもない。その時期は精神病患者=即入院が常識であったのか。
良く日本の精神医療は欧米諸国と比べ遅れていると言われるが、それでも少しずつは
前進しているのだろう。
(文中は全て仮名・仮称です)