吃音の記憶2
前回の続き
仕事の事だけならまだしも、靴の履き方(ひまわりでは、靴を脱いでスリッパに履き替えるようになっていた)や、私物(ハンドバッグの中身)に対する口出しなど行き過ぎ
ている面があった。また、前の回に書いたように、仕事上は先輩だけれど実年齢は私の方が上だったのだが、それに対する配慮、いわば年長者に対する遠慮と言うものが全くなかった。
ひまわりでの主要な仕事の一つに電話を取る事があった。代表番号にかかって来た電話をAさんBさんCさん、もしくは私が取って応対する。伝言を預かったり、しかるべき担当に回す。
お電話有難うございます、は要らないので「ひまわり株式会社でございます」と出て下さい、と教えられた。
ところが、である。初めはスムーズにそのフレーズを言えていたのだが、一か月二か月と経つうちに、仕事は慣れてきているはずなのに電話を取っても「ひまわり」の「ひ」が詰まってしまい、どうしても出てこないのだ。「ひ」が発音しにくいという経験は全くなく、仕事を始めた当初は問題なく言えていたのだが、五回に一回、三回に一回というふうに詰まる事が増えて来た。電話は取るのだが沈黙の状態が続く。相手は電話口で「もしもし?もしもし?」と繰り返す。会社名を言わなくては、と口をぱくぱくさせるのだが一向に言葉が出てこない。そばには他のパート職員がいる。背中から冷や汗が出て来る。
(文中は全て仮名・仮称です)