吃音の記憶3
前回からの続き
電話はかなり頻繁にかかってくる。新米の私としては、積極的に電話は取らなくてはいけない。しかし、電話に適切に対応するなどという以前に、まず第一声が出てこないのだ。前回に、段々第一声に詰まる頻度が増えてきたと書いたが、最後にはほぼ100%言葉に詰まるようになった。
何とかしなくてはいけないと、ネットで対策を探し、リラックスするとかいちど「ひまわり株式会社」とつぶやいてから電話を取るなど試したが駄目だった。
不思議な事に、最初の関門を過ぎれば、例えば相手が「ひまわり株式会社ですか?」「はい」という流れになれば、その後の会話はスムーズに進んでいた。
反面、褒められた事は一度もなかった。私はどんどん委縮していった。
パートを含め、Cさん以外の他の社員との軋轢は無かったし、仕事自体も苦痛ではなかった。
しかしCさんの本当に細かい小さい事にも及ぶ注意や指摘、マーカーの線が少しかすれているとか、シュレッダーかけ残しが一枚あったといちいち声高に指摘されるのは苦痛だった。マーカーを引いていても、印刷したもののように均一に引いていないとまた何か言われるのではないかと引き直し、コピーも少しずれるとまた何か言われるのが嫌で何度もこっをり取り直していた。少し強迫的になっていた。
私が一番恐れていたのは、電話の第一声に「詰まる」という事がCさんに露見する事だった。もっと小さな、些末な事でも取り上げてくるCさんだから、会社の顔とも、基本的な仕事とも言える「会社名」を「吃音」で言えない、という事が分かったらどんなに非難され罵られるだろう。
(文中は全て仮名・仮称です)