患者図鑑41 病院の怪談その4
北野氏の話は古株の二人も知らなかった。かなり前の事でもあるし、病死であれ自死であれ、出来るだけ他患者へは知らせないようにするものだろう。
ところで、自殺現場の「角のトイレ」では怪異体験は私もなかったし、他患者もなかったが、「あそこはおかしい」と複数の患者が口をそろえる場所が二か所あった。
一つは非常階段に向かう口で、滅多に階段として使う人はおらず、人がいないはずなのだが
そこの場所で「子供が通り過ぎるのを見た」「しゃがみこんでいる影を見た」人が続出だった。見かけられるのは女の子の姿だったが、そもそもここは子供は入院しない。だから病棟には、面会に来る以外は子供はいないはずなのだが。
私も何人もの患者が口々に言うので、怖くて非常階段方面には行かないようにしていたが何となくうす暗くて陰気な雰囲気があった。
もう一つは、同じフロアに一つだけある個室。私の居たフロアは相部屋ばかりの庶民フロアで、個室が多くあるのは一つ上のフロアだった。けれど、一室だけ個室があった。
それは相部屋にすると同室の患者に迷惑がかかる場合一時的に隔離される場所だった。風邪・インフルエンザなどの感染症に罹患した場合、躁状態が酷い時、統合失調症で一晩中独り言を言っていた人もその部屋に移されていた。
個室と言っても全くデラックスでなく、ベッド・床頭台・洗面台のみの簡素な部屋だった。しかし、そこの部屋に入った人がかなりの確率で「金縛り」に会うのだという。
私が入院中、4人がその部屋に入った。3人は感染症、1人は躁状態だった。
症状がおさまってから皆相部屋に戻るのだが。なんと4人中3人が金縛りにあったと言う。しかも普段の相部屋の時はそんな目にあったことは一度もないのに、である。
「なんか××号室(その個室)おかしいよね」と言う話はたびたび話題に上がった。
私も風邪でもひいたら、その部屋に入れられるだろう。金縛りに合うのは勘弁して欲しいと思っていたら、結局入らずに済んだ。××号室にはどんな因縁があるのだろう。
(文中は全て仮名・仮称です)