患者図鑑42 病院の怪談5
もう一つ怪談があった。B病院は外来と病棟が完全に分かれている。普段は厚い壁で仕切られ、お互い交流する事はない。
しかし、夜に限っては外来のロビーに非公式に行く事が多めに見られていた。外来のロビーは広く、また待ち時間用に雑誌が何種類かおいてあったし飲み物の自動販売機もあったのでそれらを利用しに行くのであった。
私は滅多にロビーに足を延ばすことはなかったが、ロビー常連が言うには夜間なので
誰もいないはずなのに、人影が見えるという。「おかしいな」と思って近づくと人影は消えてしまう。「私もあったよ」「人影まで行かないけど、気配を感じた事はある」
とおかしな体験をした人は何人かいた。
当直のある看護師や看護師ももしかしたら不思議な体験をしているのかもしれないけれど、公にそれを患者にいう事はなかった。
私が長男を出産するとき、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になってしまい、1か月ほど入院した。安静にしていなくてはならず、手持無沙汰で良く看護師さんと雑談した。
その看護師さんからいくつか「病院の怪談」を聞いたので、披露しておく。
出羽さん(看護師)が前の病院(総合病院)に勤めていた時の事。世良さんという
おばあさんが、長い事入院した末亡くなった。
ところが、夜勤の時、世良さんらしき人が世良さんのずっといた病室に入っていくのを何回か見たのだという。出羽さんがその話を同僚にすると、「私も見た!世良さんだよね」と同じ体験をしていたのだ。世良さんは大分長く入院していたから、もう病室が自分の家のようで、懐かしくて帰ってくるのねという話になったのだそうだ。
その他やはり夜勤時、病棟をぐるっと見回りして帰ってくるとナースステーションのそばのエレベーターが何故か階を移動しているのだという。その時間は患者は寝静まってエレベーターを使わないし(使う必要もない)当直の看護師は自分と仮眠中のもう一人のみ。医師も仮眠中。気持ちが悪いので、エレベーターの中は確認しなかったそうだが
同じ事は何度かあったという。
「でもこの病院の話じゃないから、大丈夫だから!」と出羽さんは笑っていったが
本当にそうだったのだろうか…