患者図鑑43 院内エクササイズー淋しい回遊魚ー
病院にいると運動不足になりがちだ。作業療法でも体操のプログラムがあったが
週に一度数時間程度。たまに外部からヨガの先生が来る事もあった。
あとは、広いスペースは屋上だけなので、そこででバレーボールもどきをやっている人がいたり、屋上の塀にそってランニングをする人も見かけた。NHKのラジオ体操を日課にしていた人たちもいた。
そこそこ外出をしている人ならばそれ自体である程度体を動かすことになるが、
院内にとどまっている人はそうそうエネルギーを消費する機会がない。
今でも印象に残っているのが、薗田さん。年は60代半ばといったところだろうか。薗田さんは、奨励されている昼と夜の着替えをせずに年中パジャマ姿だった。
そしてその格好で、お風呂や洗面、食事以外の自由時間は決まったように廊下を歩いていた。
廊下は病室にそってL字型にあるのだが、薗田さんは曲がらずにIに部分だけ
往復していた。運動としてウォーキングをする人は、時として姿勢よく早歩きで
腕を振って歩いたりするが、薗田さんは「とぼとぼ」という形容がぴったりの様子で
うつむきながら、ゆっくりと廊下を行き来している。
薗田さんと話をすることがあって、廊下歩きの件になった。足腰が衰えないように
意識的に歩いているのだとか。外出も自分はしないし、屋上でバレーボールを
やるほどの気力もないから、自分にあった運動をしているのだと言う。
午前も午後も、何回も薗田さんが往復する姿を見かけた。「回遊魚」という言葉が浮かんだ。
(文中は全て仮名・仮称です)。