患者図鑑75 アニマルセラピー2
前回からの続き。
江橋さんは、入退院を繰り返すようになった。入院が長期にわたる事も増えて来た。
ベルの面倒を見きれなくなくなってしまったのだ。
泣く泣く、妹さんにベルを託したそうだ。
妹さんに預けてからも、ベルの事が心配でたまらず何度も電話して様子を聞いたり、
写真を送って貰ったという。それでも江橋さんの心の穴は埋まらない。
小さい縫いぐるみを買って、「ベル」と、名付け本当のベルの代わりにそばに置くようになった。
写真で見るベルと縫いぐるみとは、あまり似ていないのだけれど、今までベルに注いできた愛情をそのまま縫いぐるみに与えているようだった。
江橋さんは、常に縫いぐるみベルを抱っこしている。食事の時も、服薬の時も。入浴の際も、洗面用具と共に浴室に持って行くのを見た。同室の人によると、寝る時も一緒だそうだ。
常に携えて、撫でて話しかけてあやしている。別に人に迷惑をかける訳ではないので
看護師も何も言わない。
「あら、この子少し機嫌が悪いみたい」「これに興味あるみたいね」とまるで生きているかのように扱うのは少しばかり気味が悪くはあった。
たぶん、患者の誰かの肘や腕でも当たろうものならば烈火の如く怒られただろう。
反面本物のベルに対する関心は薄れてしまったようで、私たちにも縫いぐるみベルの自慢話が増えて来た。
縫いぐるみではあるけれど、それでも江橋さんの心の支え、セラピーになっているように思えた。
(文中は全て仮名・仮称です)