退院への道2
何度か帰宅⇒失敗(盛り上がりすぎ)を繰り返し、ようやく家に二、三泊しても
普通に平穏に過ごし、家事も少しずつ出来るようになった。
「そろそろ退院してもいいかもね」と主治医は言った。私自身も、入院した時のような明日自分が生きていられるか分からないと言った切羽詰まった気持ちが無くなり、体が鉛のように重い状態から回復した事を実感していたので退院を不安に思うというより楽しみになった。
ここで不安、と書いたのは実際入院仲間の中には退院の許可が出ても、病院を出てやっていけるか、と不安を抱いていた人が少なからずいたからだ。
菅さんは統合失調症で入退院を繰り返している人だった。私が聞いた話だと、今回は3度目か4度目の入院。入院して2~3年との事だった。
治療の甲斐があって退院の目処がつき、役所や保健所などとも連携しながら(いわゆる身寄りのない方だった)諸々の手続きを進めていると聞いた。そんな時、菅さんが主治医の先生の後を追いかけて廊下を走って行くのを見た。
「先生!だから私幻聴があるんですってば!」すがるようにして、幻聴を訴えていた。
それを見ていた、菅さんと同室の佐原さんが「菅さん、良くなってるはずなんだ。でも退院したくないのよね。退院しても待っててくれる人がいるでなし。ずっと入院してて、家事なんかも出来ないみたいなのよ」
佐原さんのいう事がどこまで本当かは分からないが、入院⇒治癒⇒退院というルートを必ずしも望まない患者がいる、というのは事実だと思う。
(文中は全て仮名・仮称です)