患者図鑑74 アニマルセラピー1
B病院の敷地はそこそこ広い。敷地いっぱいに建物が建っているのではないので、
庭や空き地がここそこにある。
建物の裏、目立たない所で一部の患者によりこっそり猫が飼われていた。野良猫なのだが、こまめに餌をやるのでそこに居つくようになったのだ。三毛猫なので、「みーちゃん」と呼ばれていた。
患者は入退院で入れ替わりがあるが、誰かしら常にみーちゃんの世話をしていた。
アニマルセラピーという言葉があるけれど、確かに動物との触れ合いは、人と人
との交流とはまた違った癒し効果がある。
私もみーちゃんと見に行ったり、餌をやりに行った事があるけれど、「にゃーにゃー」と鳴きながら寄ってくるみーちゃんを見るだけで、餌を食べている姿を見ているだけで何となく気持ちが落ち着きほっとした。他の患者さんも同じだろう。
みーちゃんの世話を患者が世話してることを病院のスタッフも薄々気づいていたとは思うが、建物内に入れることもなかったので目をつむってくれていた。
みーちゃんは現実の存在だったけれど、江橋さんのそれはリアルではなかった。
江橋さんは独身で、一人暮らし。自宅ではベルという猫を飼ってそれは可愛がって
いたそうだ。仕事もしていなく、引きこもりがちの江橋さんは、友人や親せきづきあいも殆ど無く、ベルのみが文字通り唯一の友達で、顔を合わせる心を許せる相手だった。
江橋さんのスマホには、おびただしい数のベルの写真が納まっていて、良く見入っていたし人にも見せていた。
ベルがね、ああしてこうして、という話も良く聞かされた。
(文中は全て仮名・仮称です)