患者図鑑105 凝縮された4.3㎡
相部屋に入院している場合、カーテンで区切られたスペースが自分のプライベートエリアになる。どのくらいの広さか、ちゃんと測った事はないが検索してみたら4.3㎡から、6.4㎡以上に移行する事を目指すという記事が見つかったので、多分B病院の一人当たりのスペースもそんなものだったのだと思う。
ベッドと床頭台を置くと、ほんのわずかなスペースしか残らない。そのわずかな空間をどう使うか、何を置くかでその人自身が凝縮されているように思う。断捨離ではないけれど、本当に自分に必要な物、無くてはならない物を取捨選択、どんどんそぎ落としていって残ったものを4.3㎡の中に詰め込むのだ。
以前書いた検見川さんの
子供の頃からの怨嗟の発露のような蔵書もそうだ。
これも何度も書いたが、自分の部屋以外は入室してはいけない規則だったので、同室の患者の事以外は分からない。でも、入退院や部屋変更で多少の移動があるので複数の患者のプライベートエリアを見る事が出来た。
可愛らしく、マスコットを飾っていたり、好きな俳優のポスターを壁に貼っていたり。
ものすごく殺風景なケースもあった。
強烈に印象に残っているのが連石さん。食堂や談話室で時々雑談をしたが、ごく普通の人。同室ではあったが、連石さんは出入り口から一番奥のベッドで、私は入口から近い所だったので彼女の場所までわざわざ行く事はなかった。
ある時、彼女が食堂にハンドタオルを忘れていった。見慣れていたので、連石さんの持ち物だと分かっていたので彼女の所まで持って行った。
「連石さん、忘れ物」と声をかけようとしてはっと息を飲んだ。
カーテンは開いていたが、連石さんはいなかった。そして壁一面にたくさんのお札… 神社で貰うようなお札が無数に貼ってあったのだ。
八幡神社、天満宮。著名な神社から、聞き覚えのない神社まで大小無数にあった。
私はハンドタオルを床頭台においてそそくさと退散した。少しの間動悸がして止まらなかった。
(文中は全て仮名・仮称です)