親の喪失 ー親の役割1
鬱仲間(入院や通院仲間)ではない、友人の加奈から連絡が来た。
加奈の母親が癌で亡くなり、それから落ち込みが酷くて立ち直れないのだという。
日常生活もままならないので、精神科に通院している私に病院の紹介など相談して来たのだ。加奈は学生時代の友人だが、元気で明るい子だった。就職し、結婚して子供にも恵まれ順風満帆な生活を送っているように見えた。まさか加奈が鬱に苦しむようになるなんて。
それは加奈自身も当惑していた。自分がこんなに動けなくなるなんて、自分が自分で無くなるようになるなんて思っても見なかった、と電話の向こうの加奈は泣きながら言う。
加奈のお母さんは私も会った事があるが、加奈に面差しが似た優しい人で加奈はとても母親と仲が良かった。癌になって数年闘病していたがついに力尽きてしまったのだ。
加奈は医師から余命も告げられていたし、予期せぬ別れではなかった。しかし最後の最後まで奇跡を信じ、母親と別れが来るとはどうしても信じられなかったのだと言う。
父親だが、いわゆる一昔前の「昭和のサラリーマン」だった彼は仕事に没頭、家事も子供の事も妻任せ。加奈の中では父親の存在はとても薄かった。私と話をしていても
母親の話題は頻繁に出て来たが、父親はあたかも存在しないようであった。
女性だけれど、「マザコン」「母子密着」そんな印象を私は持っていた。
学校の事、友人の事、彼の事… 逐一加奈は母親に相談し報告していた。そうして母親も助言を与えたり、時に指示したり、それを加奈は受け入れていたのだ。
(文中は全て仮名・仮称です)