ヘルパー図鑑13(秋田さん)秘め事ホットラインー不倫とスマホー
秋田(仮名)さんは、「つばき」のメンバーの中では若めの50代。ストレートのロングヘア
を後ろに一まとめにした、良く笑う人だった。てきぱきを家事をさばいてくれ、
頼りになった。
ただ、ある時から彼女のとある行動が気にかかるようになった。
ヘルパーさんに動いてもらうのは、主にダイニングキッチンだ。掃除も調理もそこで
行われる。
ヘルパーさんが仕事をして下さっている間は、私は大概横になっているのだが、
寝室はちょうどキッチンと隣り合わせにある。キッチンの音は漏れ聞こえて
くる。寝ていると、お皿を洗う音や、掃除機の音に混じって秋田さんが通話していてる声が聞こえてくるのだ。
初めは、「つばき」からの業務連絡か、家族からの緊急の用事と思っていた。が、どうやら毎回そこそこの時間(30分くらい)話をしているようなのだ。
不要不急の通話であれば、援助中に行うのは適当ではない。彼女がどのような通話をしているのか、気を配ってみた。
食器洗い機の音や食器の音に混じって聞き取りづらいが、明らかに声の調子が私用だ。
しかも甘えるような、すねるような、おねだりするような…
「うふふ、●●くぅん、そんな事言っちゃやだぁー」と彼女がすり寄るような調子で
言うのを耳にした時、私は背中をすっと氷でなでられた気がした。
秋田さんは結婚しているので、●●君が夫であれば、
わざわざ援助先から電話する必要性はない。息子ならあんなとろけるような
言い方はしない。女の勘。不倫の匂い。
援助は決まった曜日、決まった時間だから予め相手と申し合わせておける。
援助先からなら、家族に秘密で相手に通話ができる。
とは言え、秋田さんはスマホ片手とは思えぬほど迅速に家事を片づけていた。
契約である援助は他のメンバー以上にやってくれているのだから、私が
私生活まで立ち入る筋合いでない。そもそも不倫と言い切れる確証がない。
そうこう思い悩んでいるうち、事務局から突然「秋田が『つばき』を退会することに
なりました。来週から他の者を送ります」と連絡があった。
退会の理由は未だ私は知らない。