患者図鑑18 アルコールと入院生活
お酒を併用してはいけない向精神薬は多い。処方薬局で貰う説明書にも良く「アルコールを摂取してはいけません」と書いてある。
しかし、お酒を好きな人はどんな注意書きがあろうとも我慢が出来ないようだ。
B病院は、物の持ち込みには寛容だと書いた。
食べ物に関しても、共用の冷蔵庫があり、飲み物や嗜好品を入れておける。冷蔵庫の必要がない菓子・スナック類は自室に持ち込んで食べていても大丈夫だった。
しかしアルコールのみは例外で、冷蔵庫にビールを冷やしておくことなど出来なかったし。部屋に持ち込みも禁止だった。
しかし、丹川(仮名)さんは、お酒なしではいられない人で(アルコール依存症の診断は受けていなかった)こっそりウィスキーの小瓶を持ち込んで、自室のカーテンの中でちびちびやっていたようだった。
ある時、看護師がカーテンを開けた時がちょうど丹川さんが「一杯やっている」時だった。(私はその時丁度外泊でいなかったので伝聞である)
ウィスキーを取り上げようとし、注意する看護師、少しぐらい大目にみなさいよ、と
反発する丹川さん。そこに丹川さんの主治医まで加わって大騒ぎになったそうだ。
丹川さんは酒を手放すことを断固として拒否し、結果的に数日後退院の運びとなった。
とは言え、外出・外泊が比較的自由なB病院で「外で一杯」やってくる人は多かった。
かく言う私も病院の夕食をパスして患者仲間と外出し、居酒屋でビールを飲んで帰った事はある。B病院から遠からず近からずの場所にT(仮称)と言うお手軽価格の居酒屋があり、そこに行くと患者同士でばったりという事もあった。病院では、出かける時と帰った時に、看護師に外出用紙を提出してサインをもらわなくてはいけないので、酒臭いと一発でバレる。なので飲んでも一、二杯にとどめていた。
ある夜、消灯時間を過ぎてうとうとしていると食堂の方がやけに騒がしい。何だろうと思いつつも、そのまま眠りについてしまった。
翌朝聞いたところによると、入院患者の沼川(仮名)さんが、門限より大幅に遅れて
帰還。泥酔状態で酒臭いどころの話ではなく、注意する看護師相手に大立ち回りを演じた挙句、食堂の床に派手に小間物屋を開いたとか。沼川さんは実は同じく患者の根本(仮名)さんと連れ立って出かけていたのだが、一、二杯で止めようよという根本さんを尻目にぐいぐいと杯を空け、ふらふらになって根本さんに引きずられるように帰って来たのだという。
お灸をすえられるところが、二日酔いが酷くようやく犯行翌日の昼ご飯の後に説教をされたそうだ。しかし、きつく注意されたはずの沼川さん、居酒屋の途中から記憶が無いらしく「私、そんなに騒いだの?」「吐いた記憶はないんだけど」とちっとも悪びれていなかった。