患者図鑑29 お風呂事情その2
渡辺さんは双極性障害1型で入退院を繰り返している人だ。躁状態の時には
毎日のお風呂をとても楽しみにし、「A浴室が一杯で、Bになっちゃったー」
(A浴室の方がB浴室より若干広いので人気があった)「朝一の枠が取れたわ!」
など、良くはしゃいで話していた。
しかし鬱に入ると一転して「全く」入浴しない、出来なくなるのだ。渡辺さんと同室の秋葉さんによると、食事の時間にふらふらと食堂に足を運ぶほかは、同室の人と言葉を交わす事すらせずひたすら寝ているのだと言う。「酷い時は一か月は入らないよ」と、秋葉さんは言っていた。「だからね、本当言うとちょっと臭いんだ」とも口にしていた。
看護師も衛生面から入浴やせめてタオルでの清拭をすすめるそうなのだが、とてもそれに応じる余裕がないらしい。私は鬱モードの時の渡辺さんを見かけるのは食堂で遠目に見る位だったが(席が遠かった)確かにうつろな目をして、髪はぼさぼさで服も着替えているのか、同一のよれよれの物を着ていた。
逆に躁モードに入ると一転、入浴に熱心になるのは前述した通りだが、長めの髪を
巻いたり結んだり、服もとっかえひっかえになる。多弁にもなるのですぐ「ああ、躁のサイクルに入ったんだな」とはたからも分かった。
ところでA、B両浴室には湯船とシャワーがあって、私は最初のうちは湯船も利用していた。あったまるし、リラックスできる。
だがある時患者仲間の池野さんからオソロシイ話を聞いてから、湯船に入るのをやめた。
(文中は全て仮名・仮称です)