患者図鑑54 クレーマー クレーマー1
1970年代に「クレーマー クレーマー」という米映画があったようだ。これは
ミスタークレーマーとミセスクレーマーの離婚裁判の話らしい。
私はてっきりいわゆる文句をつける人、クレーマーの話だと思っていた(笑)
もし、「クレームをつける人」の意で「クレーマー クレーマー」という映画を作るとしたら、私は羽田さんを適役として推薦しただろう。
羽田さんは声も体も(態度も)大きい人だった。なので目立ってはいたが、食事の席や部屋が離れていた事もあり、余り話す機会がなかった。
ある時、たまたまお茶を飲みに食堂に行ったら(食堂には給湯・給茶器がある)
羽田さんとニ、三人だけが座っていた。その中の一人に「安井さん、ちょっと話して行かない?」と誘われ、輪に加わった。
話をリードするのは羽田さんだった。彼女の話題は「今日の武勇伝」。彼女はいわゆるモンスタークレーマーだったのだ。
今日はどこそこの店に行った。店員のこれこれの態度が頭に来た。だから、ああこう説教をしてやった。そんな話が延々と続く。お店をはしごする場合もあり、そうすると
最初の店ではこう、次の店ではこうと話が展開する。
どう聞いても、店員にそれほど落ち度があるとは思えない。「品物を出すのに時間がかかった」「言葉遣いがなってない」「お辞儀をしない」「いらっしゃいませを言わなかった」どれも取るに足らない事ばかりに思える。
しかし、例えばお辞儀をしなかったり、お辞儀が浅かったりすると「如何にお辞儀が大事か」「何故あなたは出来ないのか、しようとしないのか」「やってみなさい」と長時間にわたり責め立てるようなのだ。
そして、「私がしっかり叱ってやったから、やっと店員もマナーや礼儀の大切さを学んだでしょう」と悦に入っている。
彼女からしたら、自分は水戸黄門、正義の味方。なってない接客をする店員を成敗しているのだ。彼女は毎日のようにでかけていたが、接遇を指摘するのが彼女の「世直し」で、使命感を持って狩りに出かけているのだ。もうあらかた病院の近所の店舗は行き尽くして、電車にのってデパートなどまで遠征しているらしい。
そして病院に帰って、誇らしげに本日の成果を披露するまでが流れであった。
(文中は全て仮名・仮称です)