患者図鑑72 ドッペルゲンガー
未だに解決されていない謎案件。
石丸さんは、中年の地味な印象の女性。あまり周りと話す事もなかった。
しかし、不思議な事に石丸さんの姿を病院内隈なく、あちこちで頻繁に見かけるのだった。
それが食堂や談話室ならば、何もおかしい話ではない。
しかし例えば、急に着信音が鳴って、スマホ片手に人が居ないエリア(非常階段降り口や、廊下の隅)に走って行くと石丸さんがいる。
病院の敷地で、行った事のない場所に足を延ばしてみようかな、と裏庭(ゴミ捨て場や
物置がある所)に行ってみると石丸さんがいる。
およそ、人がいないだろうと思われるところ、わざわざ足を運ばないだろうと思われる場所に行くと高確率で石丸さんに出会うのだ。
こう書くと、石丸さんが私のストーカー?とも取られかねないが、他の患者も異口同音に「思わぬ所に石丸さんがいる」「一日に何度も変な場所で石丸さんに会う」と言う。
別に石丸さんはこちらを見て驚いたふうでも待っていた様子でもない。ただし、こちら側は、「また石丸さんがいた!」とびっくりする。お互い何もしないか、せいぜい軽い会釈をする程度。
石丸さんが早歩きや走る姿は見た事がない。いつもごく普通のペースで歩いてる。何故彼女が複数の人に、そこそこ広い病院内のあちこちで目撃されるのだろう。
冒頭に書いたように、その理由は結局は解明されなかった。人と話さない方だったので
その人となりは良く分からないが、待ち伏せして驚かせようとか、付きまといをしそうにはおよそ見えない人だった。
結局は忍者だ、いやドッペルゲンガーだ、見えない所で猛ダッシュで走っている。実は元陸上選手だった、いや瞬間移動の能力者だの、真相解明にもならないふざけた結論に終わったのだった。
(文中は全て仮名・仮称です)