そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

患者図鑑86 守秘

秘密

これは、入院仲間の砂山さんから聞いた話。

砂山さんが以前通院していた病院(その後入院もしている)の待合室で、千頭さんという女性と知り合った。

千頭さんには高校生の子供がいて、不登校ぎみであり、登校しても教師や同級生とたびたびトラブルを起こす。千頭さんは頭を痛め、息子を精神科に通院させていた。

たびたび子供につきそっており、受診を待っているうちに砂山さんと顔見知りになったそうだ。砂山さんは本人が病気、千頭さんは息子さんが病気という違いはあるが、お互い年齢も近く、たまたま砂山さんもお嬢さんではあるが同じ年頃の子供がいる事もあり、色々相談されたり悩みを打ち明けられたそうだ。

ある時、待合室で砂山さんを見つけるやいなや、千頭さんは憤懣やるかたない様子で

小走りに近づいてきた。千頭さんの訴えは以下のような内容だった。

息子が内緒で包丁を自宅から持ち出し、鞄の中に入れて登校していた。偶然、教師に包丁が見つかり騒ぎになり、千頭さんも学校に呼び出されたという。

息子は、教師Aや同級生B C がむかつく。今度何か言われたら、包丁で脅そうと思っていた と言ったそうだ。

千頭さんは学校に平謝りし、息子を諭し、包丁を回収して簡単に持ち出せないようにした。

問題はその後だ。息子の主治医に包丁事件について話した所、主治医は涼しい顔で「知ってましたよ。俊治くん(息子)、教師や同級生がむかつくから包丁を学校に持って行く、と話していましたから」

と答えたそうだ。千頭さんはびっくり仰天した。学校に包丁を持参するなど看過できない行動だし、脅す目的と言っても逆上したら実際相手を傷つけてしまうかもしれない。

「俊治がそんな事を言っていたなんて… どうして母親の私に言ってくれなかったんですか?」

千頭さんは医師を問い詰めた。

「俊治君と、ここで話した事は絶対に口外しない、と約束しましたから」

医師は飽くまで秘密は守ると俊治くんに約束したから、の一点張りだったという。

 

本当にそうだろうか。まず、俊治くんは未成年。包丁を学校に持って行く事は下手をすると殺傷沙汰に繋がりかねない。保護者である千頭さんに、例えば内密の形で伝えるのは妥当な判断のように私には思える。事件や事故を起こしてしまってからでは取り返しがつかない。怪我をした相手、俊治くん、千頭さんも深く傷つくことになる。

確かに基本・建て前では「ここで話した事の秘密は守ります」であろうが、もっと大きなものを守るためには柔軟な判断も必要なのではないかと砂山さんの話を聞いていて思った。

(文中は全て仮名・仮称です)