患者図鑑88 病気への愛
高石さんは、うつ病で入退院を繰り返している人だった。20歳の頃から30年以上病気を患っていると言う。(1/4世紀の私より先輩だ!)
独身で、兄弟はいない上に父親を高校生の頃に亡くし、肉親は母親のみ。しかし詳しい事情は分からないが、母親とも疎遠になっていると言う。
中学生時から不登校気味で、高校はほんの少し行って辞めてしまった。その後は引きこもりになり、職についた事は一度もない。
そんな高石さんなので、友人は一人もいないそうだ。母親からも遠ざかっているので、文字通り天涯孤独の身なのだと言う。退院するとアパートに戻るのだが、待っている人も訪ねてくれる人もいない。一日中テレビを見て、誰とも話さない日が続くと言っていた。
だから病院に入院して、話し相手がいたり周りに人がいるのはとても安心で気持ちが休まるそうだ。
私もうつ病(のち双極性障害2型と判明)であったが、うつ状態は辛く苦しく、はやくその状態から抜け出したいといつも思っていた。
けれど高石さんにとってはうつ病は大事なものらしい。病院は彼女の心地よい居場所だが、それも病気あっての事。うつ病がいなくなってしまったら、入院できなくなる。彼女は病気がなければ、ただのニートである。「病気の身」が彼女のアイデンティティーであり、拠り所のようだった。肉親も友人もいない中、彼女に寄り添ってくれたのは病気だけだった。30年、うつ病は彼女と一緒に居てくれたのだ。
一般的にはどんな病気も忌むべき、厭わしい存在だが、高石さんに取ってはいとしいそばにいつまでも居て欲しい大切な物のようであった。
(文中は全て仮名・仮称です)