患者図鑑91 人間計量器
豊平さん、推定40代の女性は摂食障害のようだった。他の疾患も持っているのかもしれないが、それは分からない。
豊平さんが摂食障害と思われたのは、三度の食事の時に全く出された物に箸をつけない事もあれば(看護師に少しでも食べるよう促されていた)、怒涛のようにかき込み、かつおやつをばりばり食べている時もあったからだ。常に両極端だった。
彼女の安定しない食欲に応じて、体重も増減を繰り返していた。少しぽっちゃりしてきたな、と思ったらぐんぐん痩せて行く。と思ったらまた増えて行く。
病棟には体重計があり、自由に測れるようになっていた。また、週に一回測定日があり、看護師の前で体重計に乗り看護師が記録するようになっていた。
豊平さんは体重が気になるのだろう、しょっちゅう体重計に乗っていた。一日に何回も乗る姿を見かけた。
彼女は自分の体重に敏感なだけでなく、他の入院患者の体重の変化に対しても鋭かった。患者仲間をつかまえては、「少し太った?」「痩せたんじゃない?」を繰り返していた。そして、その観察眼、正確さはおそるべきものだった。
太った、と言われたAさんが念のため体重計に乗ってみると400gほど増えていた。減った、と言われたBさんの場合200g減っていた。豊平さんの判定ははずれた事がなかった。
病院なので、タイトな服を着ている人は皆無である。緩いスウェットやルームウエアをなのに、何故わずかな増減を見当てる事が出来るのか、驚きであった。
(文中は全て仮名・仮称です)