特別お題「今だから話せること」
特別お題「今だから話せること」
今だから話せること… 正確に言えば、リアルな知り合いには「今でも」話せません。
もやもやを、心のなかに秘密・しこりを抱えたままで来ました。
ペンネームで書いているブログだから、直接の知り合い相手ではないから話すことが出来ます。
私には兄がいます。兄は結婚して子供を二人授かりましたが、離婚しました。原因は「女性関係」です。職場の女性、水商売の女性、次々と手を出していました。
そうするとお金も時間も家族には割けない。おざなりに、犠牲になる。いきおい夫婦仲は悪くなり、離婚になったのです。
兄の元妻、私の元義姉の和美さんから兄の女遊びぶりを聞いて呆れ果てました。休みの日、冠婚葬祭で地方に行ったら夜はそこで風俗。なじみになったら飛行機や新幹線を使ってまで通います。
こっそりスマホを見たら、あり得ない量のメッセージのやり取り。頼んだ事はまずやってくれないのに、浮気相手への対応はきめ細かい。
どこかおかしいとしか言いようがありません。私の母は長く癌で闘病しているのですが、母の見舞いや看病もそこそこに地方遠征を繰り返していたのですから。
私が兄の事を知ってとてもショックだったのは、これが初めて聞いた話ではないからです。私の父方の祖父、父、そして兄に連なる負の連鎖。黒い血脈のようなものを感じてしまったからです。
まずルーツとも言える、祖父の話からします。祖父の父、曽祖父については若くして亡くなり、その人柄は良く分かりません。
私の父は祖父の事を酷く嫌っていました。私がほんの小さい頃からです。私はそれが不思議でなりませんでした。そして祖父が病気になった時も、とうとう亡くなった時も少しも心配するそぶりも、悲しい様子の欠片も見せなかった。見舞いにも一度も行きませんでした。
それどころか葬儀の場で大声で祖父の悪口を言い、すっきりした表情をしていました。
大人になった私に父から直接に、また父から話を聞いた母からその理由を聞きました。
祖父はともかく家庭を顧みない人。職を転々とし、結果家庭は貧しく、けれど女遊びが酷かった。少ない収入を女性につぎ込み家に帰って来ない。祖母は相当苦労したそうです。父親としての責任をろくに果たさないのに、家族には威圧的にふるまい、時に暴力も辞さない。
父はアルバイトや奨学金でやっと進学したのですが、いざ就職すると祖父から金の無心。それも女性に浪費するのが分かっている。自分は奨学金を返さなくてはいけない身なのに。父はほとほと嫌気がさしたそうです。
祖母は明治の人間で、祖父よりも一回りも若かったので、逆らうという事は出来なかった。両親を早くに亡くし、収入を得る当てもなく、祖父について行く他はなかった。どんなに夫に不満でもその場に踏みとどまるしかなかったのです。
祖父の女性の対象はランダムで、やっていた商売の顧客、近所の人、中でも酷いと思ったのは祖母が両親の没後に残った妹を自分たちの所に引き取ったあと、祖父が妹に手をつけた、という話です。妹には子供が出来てしまったけれど、他所に里子に出したとか。
祖父が亡くなって父が喜んでいた話は前述しましたが、祖母も見違えるほど明るくなったそうです。祖父は比較的長生きしましたから、長年耐え忍んだ祖母の心中を察するに余りあります。
そのように父親の放埓ぶりを憎んでいた父ですが、皮肉にも全く同じ道をたどる事になりました。
これは色々父の行状を怪しんだ母が、こっそり手帳やメモを見たり、父を問い詰めて分かった事です。仕事上で知り合った人、水商売の女性、会社の同僚の未亡人… こちらも色々でした。
旅行に行くと、色々女性用のアクセサリーが包装紙に包まれてスーツケースに入っています。それは母にも私にも一つも渡りません。皆、父の「ガールフレンド」に行くのです。
父もお金と時間を女性に大量に消費していて、母は自分の親戚にお金を借りていました。父親の役割を果たしていないのに、進学や就職で十分な結果を出さないと叱り飛ばしました。見栄っ張りな人だったので、子供が○○大学、✕✕会社で働いていると自慢するのが大好きだったのです。
父は90代で亡くなりましたが、90になってもまだ女性とやり取りしていました。白髪頭の腰が曲がったおじさんになっても、ラブレターを送っているのです。デイサービスに通っていて、女性スタッフにセクハラを働き問題になりました。本当に呆れました。
祖母同様に母も深く悩み、ストレスで体調を崩していました。子供たちに夫の愚痴をこぼし、兄や私は母を慰め、支え合ってきました。勿論父の事は母も私達も嫌悪し、憎んできました。それが兄が全く同じ道をたどるとは…
実は父の弟、私の叔父も相当なものだったそうです。祖父の自営業を継いだのですが、やはり従業員や顧客に手を出し、婚外子まで作ったとか。
父も叔父も、祖父の行状に悩んでいたはずなのに、兄も父を罵っていたのに何故同じ轍を踏むのか。
祖父・父・叔父・兄の行状は共通しています。
女性関係がともかくだらしない。複数の女性と乱れた関係を持つ。
本当に好きな女性が出来て恋に落ちたというよりはとっかえひっかえ。
家族をないがしろにして精神的のみならず、金銭面でも負担を強いる。
家族対しては自分勝手であるが、女性にへの外面は滅法いい。
更に言えば、4人とも全く外見は冴えません。おおよそ「モテる」タイプには思えない。自分から近づいて行くのでしょうか。そして家族が困る程お金を使うので、金払いの意味では女性に取っていい相手になるのかもしれません。
祖父のふるまいに関して、父や叔父は批判的でした。祖母に大変同情して、祖母に対しては優しかったです。祖父の行いを憎み、祖母の苦労を間近で見ていながら結局は祖父と同じ事をして、自分の味わった苦しみを自分の家族に与えています。
兄もそうです。北畑家(私の旧姓・仮名)の男性には放逸な、淫蕩な血が流れているとしか思えません。父には姉・妹がいますが、女性たちは真面目で堅実な家庭を築いていました。
祖父と父のありようを見て母が「北畑の血だね」とため息をついていたのを思い出します。
「でも、敬一(兄)は別だよ」と母は言っていたけれど、結局同じになってしまった。「血」などあまり思いたくないけれど、そんな考えがふと浮かんでしまう負の血脈なのでした。
兄のところには男の子が二人います。直樹くんと誉之くんです。彼らは母親ー和美さんのもとで暮らしています。和美さんや直樹くんたちは、祖父や父、叔父の事は知りません。話していません。話せません。どうか二人は兄のように、父や叔父、祖父のようにはなって欲しくない。心からそう願っています。
(文中は全て仮名・仮称です)