患者図鑑5 洋食屋のおかみさんの摂食障害
同室の相沢さんについて書こう。今まで待合室で精神科の患者さんと
居合わせたことはあったが(患者図鑑1~4)親しく言葉を交わしたのは
同室になった相沢さんと伊原さんが初めてだった。
相沢さんはショートカットの似合う40代くらいの女性で、はきはきと話す方だった。
「私ねぇ。摂食障害で入院してるのよ。拒食症」
確かに病的に痩せていて、手足は木の枝のように細かった。
顔色は悪く、爪はぼろぼろ。目がぎょろぎょろ目立っていた。
「食べても、喉に指入れて吐いちゃうの。何度も吐くから歯も悪く
なっちゃって」じっくりと見た訳でないが、確かに歯は悪いように見えた。
患者は食堂で一堂に食事を取るのだが、相沢さんもきちんと席についていた。
しかしあまり食べていないように見えたし、実はその後吐いてしまうこともあると
こっそり打ち明けてくれた。「なかなか治らないのよね」
酷くやせてはいたが、それなりにエネルギッシュで良く話しかけてくれたし、
院内の庭園や売店にたびたび出かけていた。
びっくりさせられたのがこの一言。「こんな病気だけど、うち洋食屋なのよ。
一日何十人前もの食事運んでるの。自分は食べれないっていうのに、笑っちゃうよね」