患者図鑑6 宿題は病院の床頭台で
伊原さんは、相沢さんとはタイプが違い、物静かでおとなしい感じの方だった。
うつで繰り返し入院している、とおっしゃてっいた。
昼間は起きて本を読んだり、庭園で散歩をしたり手紙を書いたりしていた。
私自身がそうだったのだが、うつが酷いとトイレに行くのすらしんどい。
昼間起きていることなど出来ない。
なので、私が入院した時は伊原さんは少し調子が良くなってきていたのかも
しれない。
伊原さんは、私が親に小さい子を預けているのを聞き
「うちは中学生の女の子だから、何とか主人と二人で留守番大丈夫なのよ」
と話してくれた。
お嬢さんとはすぐに会う機会が出来た。ご主人は退社時間を考えると面会時間(午後7時まで)に間に合わないとかで、土日にしかこられなかったが、お嬢さんは頻繁に
お見舞いに来ていた。学校からまっすぐ病院に来て、お母さんのベッドのそばの床頭台
の机で宿題をしあげて帰って行くのだ。
中学生だから何とか大丈夫、と言われてもお子さんも心細かったりさみしかったり
もしたのだろう。
学校の事を話しながら、鉛筆を走らせるお嬢さんのことを伊原さんはいつもにこにこ
して見守っていた。