患者図鑑22 婚活
B病院では男女で生活空間が完全に分かれているので、男性と会う機会はあまりなかった。作業療法か、もしくはまた別の機会に書こうと思うけれど皆が時間をつぶす屋上
くらいだ。
私は既婚者で、ボーイフレンドを作ろうなどと一片の関心もなかったが、女性患者の中には「婚活」に励んでいる人が二人はいた。
一人は間島さんといって、若く見えたけれど実はアラフォーだとか。間島さんは
自分から「私婚活しているのー」「結婚したい」と常々口にしていたが、滅多に外出もしないし作業療法にすら出ない。間島さんのターゲットは院内。看護師(例えば山内さん)
だったり、出入りの業者さんだったり。業者さんが物の入れ替えなどしていると、
後ろから「こんにちは!元気ですか」といきなり声をかけるので業者さんも目を白黒させていた。「積極的に行ってるの」と間島さんは言うが、そんな手法では実を結びようがない。
もう一人の水島さんはもっと本格的に婚活をしていた。。うつで入退院を繰り返している彼女は30半ばだった。お母さんが、一人っ子でもある彼女の将来を心配して結婚相談所に入れたそうだ。目鼻立ちがはっきりしていて、お嬢様大学を出ている彼女には時々お見合いの話が来るようだった。
大体の入院患者はすっぴんで、出かけるとしても近くのコンビニかRスーパー程度
。よそいきの服など着る事はない。水島さんも普段はそうなのだが、見合いの日はばっちりメイクをし、ワンピース+ハイヒールで出て行くからすぐ「ああ、今日はあれだな」と分かる。
おめかししているはずなのに、どこかちぐはぐな感じがするのが不思議だった。
私の入院していた3か月間の間、水島さんは何度お見合いにでかけただろう。しかし
結局私のいた間には話はまとまらなかった。それどころか、見合い時点で断られ交際にすら進んでいないという話だった。
水島さんは普段からも話の途中でぽーっとして空を見つめたり、急にうつむいて黙り込んでしまう人だった。なかなか結婚相談所で相手を見つけるのは難しいのではないか、
と内心思った。
水島さんのお母さんは娘さんの事が心配でたまらないらしく、しょっちゅう
面会に来てあれこれ話し合っていた。一度は、複数の見合い写真を見せられ「どれが
一番いいと思いますか?」と意見を求められた。
彼女の病気を承知の上で支えてくれる人がいいのか。同じ病気をかかえて、理解し合い助け合っていくのがいいのか。
水島さんはいいおうちの出らしく、お母さんは前者を望んでいたようだ。確かに長年病気の一人娘の事が心配なのは痛いほど分かるけれど、見合いに向かう水島さんの顔が
晴れやかだった事は一度もなかった。
(文中は全て仮名 仮称です)