そううつ色々図鑑ーメンヘラ歴1/4世紀ー

双極性障害持ちゆえに出会った色々な人たち、出来事について。精神科入院生活の有様。サイテーな家事・育児についても。

患者図鑑95 親の死に目

親の死に目

星さんの自己紹介によると、四国出身。大学進学時に上京し、就職したが

段々と心のバランスが崩れて来て精神科を受診。病状ははかばかしくなく

入退院を繰り返して今に至るとの事だった。

星さんは故郷のX県には長年帰っていないという。両親を始め、兄弟や親類も

いるのだが、ずっと会っていない、会えていないと言っていた。

所用などで先方が上京してくれば会うことも出来るのだが、星さんの方が故郷に行くのが無理なのだ。

一つは、長い間乗り物(車、電車、飛行機など全般)に乗っていられない事。パニック障害のような症状を起こしてしまうのだと言う。

また、非常に疲れやすく、体力がない。B病院入院患者御用達のRスーパー

utuutuyasuyasu.hatenablog.com に行くのも、一大決心がいると話していた。

 

星さんの故郷や家族に対する思いは強く、会いたい、顔を見たいと良く言っていた。

しかしご両親もだんだん高齢になり、足腰が弱くなったり病気をしたりしてあちらから上京する事は難しくなっていった。

この時代だからzoomやライン通話で顔を見れるのでは、と思うがご両親はもとより星さんも機械系にはとても疎く、持っているガラケーもうまく使いこなせないと埃をかぶっている有様だった。普通の電話をかけようとしても、話したい事はあるし、親の声も聞きたいのだがいざ電話しようとすると緊張して動悸がしてきて結局はかけられないのだと言う。手紙を書けば、と話したが書こうとすると手がふるえて字が書けないのだと言う。そんな事で長年気持ちの中にはありながら、ご両親とは会えない、コミュニケーションが取れない状態がずっと続いていた。

 

ある時、食事時間に星さんはずっとうつむいて食事に手を付けない。気になっていると

「昨日、兄から連絡が来て父が危篤だって」

星さんはご両親とは良好な仲だったようで、子供の頃の思い出話など良く聞かせてくれた。ご両親の写真も病室に飾っていた。

ずっと顔も見ていないお父様。今会わないともう機会はないかもしれない… 

しかし結局星さんは故郷に向かう事は無かった。どうしてもX県まで行く自信がなかったのだという。そしてお父様はほどなく亡くなられたのだが、葬儀にも参列しなかった。移動の困難もだけれど、葬儀に立ち会うという大きなダメージに向き合うことに耐えられなかったのだそうだ。主治医とも良く相談し、星さんの思いや今の状態を伝えた上で行かない判断をしたのだという。

芸能人や役者は職業柄親の死に目に会えないと言うが、このようn親の死に目に会えない・会わない場合もあるのだな、と思った。

(文中は全て仮名・仮称です)