患者図鑑106 鷲塚さんのイタリアンデビュー1
主治医の外出許可さえあれば、外出(もしくは外泊も)自由に出来た。
気分転換や楽しみとして少なくない患者がしていたのが外食だ。
前に記事にした、居酒屋TはB病院入院患者御用達だったし
他にも近場・美味しい・お手頃価格 の店を開拓して歩く人もいた。
ある時、雑談の時間に病院近くの食べ歩きを熱心にしている論田さんが、興奮気味に
「W駅そばにある、イタリアンのXって知ってるよね?」と話し出す。
Xはお手軽価格で美味しいイタリアンが食べられる、雰囲気も良いと評判の店だ。
「開店一周年記念に、今月13日から一か月間20%オフ!しかも5人以上で予約すると、
さらに10%オフでウェルカムドリンクがつくのよ!」
Xの評判は私もつとに耳にしていたから、それに乗らない話はない。あっと言う間に日取りとメンバーが決められて行き、4人まで集まった。
「後一人!」と論田さんはノリノリだ。ちょうど雑談グループに鷲塚さんがいて、
彼女はXでの食事に手を上げてはいなかったが、論田さんが声をかけた。
「鷲塚さん、来ない?本当においしい所だよ(論田さんは既に行った事があった)。
病院から近いしさ。このチャンスにどう?」
鷲塚さんはおとなしく控えめで、グループで雑談する時も端に座って黙ってにこにこ
笑っているような人だった。そう言えば、あまり外出をする姿を見た事はない。外食を良くする人は、食事時に食堂にいないのですぐ分かるが、鷲塚さんはいつも居た。
(文中は全て仮名・仮称です)