精神科入院生活
前回からの続き。 江橋さんは、入退院を繰り返すようになった。入院が長期にわたる事も増えて来た。 ベルの面倒を見きれなくなくなってしまったのだ。 泣く泣く、妹さんにベルを託したそうだ。 妹さんに預けてからも、ベルの事が心配でたまらず何度も電話し…
B病院の敷地はそこそこ広い。敷地いっぱいに建物が建っているのではないので、 庭や空き地がここそこにある。 建物の裏、目立たない所で一部の患者によりこっそり猫が飼われていた。野良猫なのだが、こまめに餌をやるのでそこに居つくようになったのだ。三毛…
上杉さんが今日もスマホをいじっている。上杉さんは、雑談にも交わるし作業療法にも時折参加するが、大方の時間をスマホに費やしている。 雑談の際に「上杉さん、スマホで何してるんですか?ゲームとか?」と一人が聞いた。 上杉さんはにやりと笑って、「こ…
未だに解決されていない謎案件。 石丸さんは、中年の地味な印象の女性。あまり周りと話す事もなかった。 しかし、不思議な事に石丸さんの姿を病院内隈なく、あちこちで頻繁に見かけるのだった。 それが食堂や談話室ならば、何もおかしい話ではない。 しかし…
瑠璃川さんは、推定60代半ば。おかっぱのグレイヘアの大人しい人だった。 入院歴は10年前後と人づてに聞いた。いつも静かに食事をし、廊下を散歩したりしている。他の患者とは会釈程度で会話らしい会話をしているのを見た事がない。 しかし、ヌシ部屋のよう…
と思えば、前項でちらっと触れたようにネグレクト状態、子供に全く 関心が無いように見える人もいた。 冷水さんは、子供がまだ幼稚園前。見てくれる人もいないので乳児院に預けて いるそうだ。でも、時間があっても面会には行かない。 「ちゃんと乳児院で面…
床頭台にも引きテーブルがついているが、本当に小さいので、本を拡げたり 書き物をする際は食堂や談話室のテーブルを使う人が多かった。 ある時、つい一週間ほど前に入院して来た力竹さんが食堂の端で幾つもテーブルを 使って何かしている。 力竹さんはまだ2…
B病院の創立が何年、と書いてしまうと特定されてしまいそうなので明記しないが そこそこ歴史のある病院である。 ある時、新しく入院して来た患者来野さんが「私ずっと前にここ(B病院)に入院していた事があるのよ」と言う。 「中は随分変わったけど、外観は…
一番気楽に気安くつきあえているのは梁井さんと弓削さんだ。入院中から何となくうまが合った。連絡先を交換し、退院後も3人で会っている。お互い病気の事は十二分に承知だから気を使わなくてすむのが良い。 初めはもう一人、吉永さんと言う人も交えて4人で…
患者友達は必要か、というと時期と相手によっては必要な存在だった。 つまり、こちらが人と交われる余裕のある時期にストレスを感じない相手。 患者歴の長い人には、色々制度の事や病気との付き合い方を教えて貰ったし、 家族以外には自分の病気の事を話して…
入院患者に米良さんという人がいて、同じく入院している門馬さんが友達… というよりはお守役になっていた。 米良さんは統合失調症で入退院を繰り返していた。門馬さんは、うつ病との事だった。 米良さんは躁鬱もあり、時々病棟で騒いで問題を起こすこともあ…
一人で居たがる人も常にそうと言う訳ではない。躁鬱の人は、躁状態になると、ものすごい勢いで話を独り占めし、一人で大笑い、騒ぎまくる。(あまり酷いと個室へ隔離となる) utuutuyasuyasu.hatenablog.com 躁が落ち着いて、鬱に入り個室から出てくると、食…
吉田兼好「徒然草」に、 よき友三つあり。一つには、物くるる友。二つには、医者。三つには、智慧ある友。 とある。医師はプロが何人もいる場所なので十分間に合っている。智慧… あんまりないかな。となると、「物くるる友」になるしかない。 前にも書いたが…
ヌシ部屋の住人ほどの濃い人間関係は置いておいて。 utuutuyasuyasu.hatenablog.com A病院に入院した時もB病院に入院した時も、初めは不安でとても心細かった。 utuutuyasuyasu.hatenablog.com utuutuyasuyasu.hatenablog.com 精神科の入院という未知、かつ…
「ヌシ部屋」の人たちは、看護師や医師ですら鼻であしらい、気ままに、わが物顔で過ごしていた。同年代の患者が入院して来ても、経験不足故、主のグループには入れない。まあ、私が仮にその年代だったとしてもあの主グループには入りたいとは思わないけれど…
入院生活に限った話ではないと思うが、どこにでもグループや派閥、上下がある。 話がそれてしまうが、私の母が子宮がんを患って入院した際、相部屋に入院した。 見舞いに行くと、母が笑いながら 「ここでは病気が重い人が偉いのよ。入院の回数、手術の回数が…
私が精神科以外で入院した経験は、出産と扁桃腺を切った時くらい。いずれも短期。あっと言う間に退院した。 精神科は数か月、年単位で入院する人もいる。長時間の入院生活をどう過ごすかは大事な問題だ。 精神科入院生活の中身は、前に書いた記事と重複する…
入院中、不眠にも困らされたが、眠れたら眠れたで、また別の問題があった。 1睡眠脱衣症候 ベッドに入る時、パジャマを着るのだが、途中で無意識(もしくは半ば無意識)で パジャマのズボン、時にはショーツまで脱いでしまうのだ。 朝目覚めたら下半身ショ…
私の主訴はうつなのだけれど、不眠もかなりの比重で悩みの種だ。 入院中、睡眠導入剤を数種処方されているにもかかわらず眠れず、 ナースステーションに何度も頓服を貰いに行き、それでも眠れなかった。 utuutuyasuyasu.hatenablog.com 今は通院状態だが、不…
続いてまた夜のお話。前述した様に、夜間は外来棟に入る事が出来、そこの待合室の自販機を利用できた。 utuutuyasuyasu.hatenablog.com 電気がついておらず、怪談話が出る位真っ暗な中、唯一自販機だけ明るかった。 飲み物を買い終わったらほとんどの人はす…
入院中、三食はきちんと出る。デザートは時々果物がつくくらい。味気ない食事に、みなちょっとした自分用のお菓子・おやつを用意して、食堂や談話室でおしゃべり する際などに食べていた。スナック菓子が多かったが、冷蔵庫も使えるのでヨーグルト、アイスな…
平林さんはおじいさん患者。男性棟の住人なので、顔を合わせる機会は多くなかった。 屋上、ここは男女共に外の空気を吸いながら談笑したり、ちょっとしたボール遊びなど する場なのだが、そこで見かける程度だった。 平林さんはお気に入りのベンチがあり、定…
外出から帰ってきた羽田さんが「成果」「戦利品」を得意げに披露するのを 聞く一方であったが、ある時羽田さんが「天誅を下す」のを目の当たりにした。 病院の患者が愛用する、近くにあるRスーパーに utuutuyasuyasu.hatenablog.com ちょっとした物を調達に…
1970年代に「クレーマー クレーマー」という米映画があったようだ。これは ミスタークレーマーとミセスクレーマーの離婚裁判の話らしい。 私はてっきりいわゆる文句をつける人、クレーマーの話だと思っていた(笑) もし、「クレームをつける人」の意で「クレ…
複数で、人目のある所で会うのは全く構わなかったが、人目のない空間で野津さんと 二人きりになるのは不安だった。 そもそも、外出届で行き先に「野津さん宅」と書けば確実に却下されるだろう。 私が外出届について指摘すると、野津さんは「適当に、買い物と…
外出の可・不可は主治医の判断による。不可であれば勿論病院内にいるしかないし、 可であっても出かけない人もいる。 私は初めは様子見で院内にいるように言われたが、そのうち半日外出→一日外出→外泊とステップを踏んでいった。外泊(自宅泊)も、一泊から…
精神科医にも「人間ってそんな教科書通り行かないよ」と思わされた。 三井医師には、良く「安井さんくよくよ悩むものねぇ」と言われた。 utuutuyasuyasu.hatenablog.com 全く持って事実なのだけれど、じゃあ三井医師はくよくよ悩むことはないのか? 私は病的…
弟の良介は長男だった事に加え、体も弱かったので殊に大切にされた。 一家5人分の家事をするのは母と久美さん。祖母は足腰が悪いと監視役に徹した。良一氏は勿論、良介も指一つ動かさない。久美さんは家事も頑張ったが、手際が悪い、遅いと始終絶えず祖母か…
「毒親」に悩まされてきたのは検見川さん utuutuyasuyasu.hatenablog.com だけではない。根来さんの場合は、絶望的な喜悲劇だった。 根来さんは父方の祖母、両親、弟との5人家族で育った。父(良一氏)は学者で 母は専業主婦。弟は3歳下だった。 祖母は生ま…
私はB病院の外来に通っていて、そのまま病棟に入院の流れであったが、入院患者すべてがその過程を通って来た訳ではなかった。 寺池さんは、あるクリニックに通っていたが、そこは入院設備がない。病状から入院の必要が生じて、医師同士が知り合いであって紹…